華の碑文(杉本苑子さんの小説)
「華の碑文」は、伊賀が誇る能の大成者 世阿弥(ぜあみ)の生涯を、弟にあたる観世四郎元仲の目を通して描いた杉本苑子さんの小説で、伊賀で発見された上嶋文書に重きが置かれているもの。
そのことは、講談社発行の日本歴史文学館19での渡辺保氏との対談における杉本苑子さんの次の発言に明確に示されています。
「ただ単に足利氏の興隆、あるいは消長にしたがって、一芸能人としての世阿弥の運命が翻弄されたというのならば、そういうことはよくあった例ですよ。歌舞伎役者や相撲とり、遊女、芸妓などが、パトロンの旦那の繁盛や歿落で、よい目を見る悪い目を見るなどということは、いくらでもあったことです。
世阿弥の場合、単にそういうことですまなかったのは何か。そのキーポイントとしてクローズアップされてくるのが、彼の体内に流れていた楠氏の血ですね。南朝方で大いにゲリラ活動をやって北朝の武将たちの心胆を寒からしめた楠氏。しかも合一の機運が高まると、次は裏方にまわって両朝の間に介在し、和合のために働いた楠氏。いろいろな意味でゲリラ的な動きを見せた楠氏の血を受けていたという事実は、分裂の世紀においてはただならぬ宿命を背負わされたことにほかなりません。この点を見据えないと、世阿弥、あるいは観世家のほんとうの姿は解明されてこないのではないかと思います。
この意味から、上島文書は非常に貴重な、重要な文書として位置づけられる・・・」
以前のブログでふれた、観阿弥・世阿弥は楠木正成の血族という産経新聞の記事と同様、杉本苑子さんからも上嶋文書は高く評価されているのであり、こうした背景のもとにこの小説を読むことで、世阿弥の能に対する厳しさ、複雑系の流れを少しは感じ取ることができたように思います。
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